さて、一般に野球肘(投球障害)といえば、肘の内側に痛みが出る上腕骨内側上顆炎と、外側に痛みが出る上腕骨小頭の離断生軟骨炎として知られています。
実際は、投球動作によって生じる肘関節部の障害を総称して野球肘(baseball elbow)と呼びます。
多くの場合肘の内側に痛みを感じる上腕骨内側上顆炎を先に起こすのですが、これは投球動作で握筋腱の付着部に負担がかかったり、肘を外に反らせる力により肘の内側に牽引力が働くために上腕骨の内側に負担ががかり、内側側副靭帯や前腕屈筋・回内筋群の微細断裂を引き起こし、上腕骨内側上顆炎を発症させ痛みが生じするものです。(大きな力がかかった場合などには一度に大きく断裂する事もあります。)
主な治療法として、電気治療や温熱治療などを行い、硬くなっている筋肉の柔軟性を高めたりします。
そして痛みの軽い例では一定期間の投球禁止とその後の投球制限(1日50球以内)でほとんどは良くなります。
ここで無理をして投球を続けてしまった場合、肘の外側に痛みが出てくることがあります。
これは、上腕骨小頭の離断生軟骨炎を起こしていると考えられる状態です。
離断生軟骨炎は、投球の際にボールをリリースする際に肘が外に反るため、上腕骨小頭と橈骨頭との圧迫により起こる軟骨の壊死が見られるもので、症状が進行すると壊死した軟骨がはがれてしまうものでのす。
投球時にで肘の外側に疼痛を訴えた場合は訴える疼痛の程度に関わらず離断生軟骨炎を疑います。
肘の外側に痛みが出始めたら、6か月程度は投球を休む必要が出てしまい、症状が進行すれば手術を考えなければなりません。
痛みが出始めても無理をすると、壊死した部分と正常な骨に分離線が現われ肘の曲げ伸ばしでも痛みが出るようになり、さらに症状が進行すると軟骨が離れてしまいます。これを離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)といい、時として離れた軟骨が関節に挟まって肘が動かなくなることがあります。
又珍しいケースで空手をしていて肘外側の痛みが強く、検査をして離断性骨軟骨炎で手術したというかたもありました。
いずれにせよ、離断性骨軟骨炎は予防がもっとも大切で、初期の段階であれば、投球を中断させることによって回復する場合もあります。
しかし、投球の中止を指示しても、「成長痛だから気にしなくていい」「痛みを乗り越えてなければ上手にならない」という考え方の指導者のもいらっしゃるようで、指導者の人が投球を続けさせて、悪化したというケースも多くあります。
特に外側に痛みを感じた場合は、自覚症状も軽微なうちからの予防が要求されるものです。
そして、根本的な解決方法として、もっとも有効なものは投球フォームを改良することです。
肘に負担がかかりやすい投げ方は、コントロールを意識しすぎて、投げる方向に最初から正面を向いていること、アクセレレーション期に肘が下がっていることなどがあげられます。
最初は右投げの場合左肩を目標の方向に向けるように立ち、腕を後ろに引いた際にゼロポジションと呼ばれる110度の角度にすると肩の負担も減り、外反肘も防げます。
【参考文献】
「肘診療マニュアル」
石井清一 ほか編著/医歯薬出版/第2版第1刷/2007年2月
4,600円+税
「スポーツ指導者のためのスポーツ外傷・障害」
市川宣恭 編集/南江堂/改訂第2版第12刷/2002年10月
2,816円+税
「スポーツ外傷・障害の理学診断 理学療法ガイド」
臨床スポーツ医学編集委員会 編/文光堂/第1版第2刷/2003年6月
7,000円+税